Home > Highlighting JAPAN > Highlighting Japan December 2016 > 日本の国連加盟60周年

Highlighting JAPAN

国連を実体験する

30年以上にわたって、国際関係に興味をもつ学生が日本模擬国連を通じて、実践的な現場で直接経験を積んでいる。

国連は各国の代表が国際問題を議論し、その解決策を決める場である。各国の利害が対立し、激しい議論や駆け引きが行われることも多い。それゆえ各国の代表者には、議論や交渉の高い能力が必要とされる。

こうした国際問題の解決策を作り上げていく過程を実体験できるのが「模擬国連」である。模擬国連は、大学生を中心とする参加者が任意の国の大使を任され、特定の議題について、担当国の立場に立って議論と交渉を重ねながら決議を導き出す教育プログラムである。

その原点は、1923年にアメリカのハーバード大学にて開催された「模擬国際連盟」にある。その後、国際問題への理解や交渉術を深める教育プログラムとして世界各国の大学・高校において採り入れられるようになり、現在では年間400ほどの模擬国連大会が世界各国で開催されている。

日本における模擬国連活動は1983年に始まった。当時、上智大学教授を務めていた緒方貞子氏(後の国連難民高等弁務官)を中心に、ニューヨークで開催される模擬国連会議全米大会に日本人学生を派遣するための組織が設立された。その後、各大学で模擬国連活動が行われるようになり、2009年に、こうした活動を取りまとめる団体として日本模擬国連(JMUN)が組織された。30校を超える大学がJMUNに加盟し、約800名の学生が参加している。JMUN主催の全国大会も年4回、日本各地で開催されている。

「幼少期から両親とともに頻繁に海外旅行を体験していたことで、自然と国際問題への関心が深まっていきました」と現在、JMUNの代表を務める東京大学法学部3年生の中西公輝さんは言う。「高校時代に国際地理オリンピック日本代表として世界大会に出場した経験も大きな糧となり、大学入学と同時にJMUNの活動を始めました」

JMUNの活動を始めた2014年の秋に中西さんは、第32代日本代表団の9人のメンバーに選ばれ、2015年3月に行われた模擬国連会議全米大会に派遣された。全米大会は、毎年ニューヨークで開催され、世界中の300以上の大学から約5,000人の学生が集まる。

全米大会において、日本代表団は中央ミシガン大学と提携し、スイス大使の合同代表団として大会に臨んだ。渡米後は当大学に約1週間滞在して政策調整を行い、さらに国連機関やスイス政府の代表者からブリーフィングを受けた後、5日間に及ぶ大会に参加した。中西さんらの代表団は、シリア難民危機、情報テクノロジーを駆使した児童虐待阻止、自然災害の危機管理と食糧計画など様々なテーマに関して議論と交渉を重ねた。

「当時は議論を重ねることで精一杯でしたが、国際問題をリアルに体験できるという模擬国連ならではの意義を充分に実感することができました」と中西さんは言う。「その一方で、様々な国々の妥協で物事が決定するという、国連が抱える問題も体験しました」

その年の全米大会で日本代表団と中央ミシガン大学の合同代表団は栄えある優秀代表団賞を受賞している。日本代表団の9人はその後、全米団事業運営局員として全米大会の運営の担い手となり、次の大会の選抜チーム選定などの活動に従事した。

「模擬国連は、国際社会の不条理さを学ぶ場なのではないかと思います」と中西さんは言う。「自国の利益だけを追求するなら政策立案のディスカッションをすればいいし、相手を論破する能力を鍛えたいならディベートを重ねればいい。しかし、国際社会はそんなに単純なものではありません。模擬国連の活動は、ある意味では政治的妥協を見出していく作業です。諸問題がもたらす不条理の中から、どのようにして合意に至ることができるのか。その力をじっくり養うことができるのが模擬国連です」

JMUNは、そうした模擬国連の意義をさらに日本全国に広めていく活動にも積極的に取り組んでいる。例えば、JMUNのスタッフは、文部科学省が国際的に活躍できる人材育成を図るために選定した「スーパーグローバルハイスクール」を訪れ、国連や模擬国連に関する授業を行っている。

日本で模擬国連活動が始まってから30年以上が経ち、これまでに5000人以上の参加者を輩出している。参加者は大学卒業後、外務省、国際機関、NGOなどの組織で働く人が少なくない。現在の駐南スーダン日本大使もJMUNの元メンバーである。今年7月にJMUNは「日本と諸外国との相互理解の促進」の活動が評価され、外務大臣賞を受賞している。

「大学卒業後は、模擬国連で培った知識を活かして、外務省、もしくは国際刑事裁判所で、国際社会の今後の秩序を築いていく仕事に進みたいです」と中西さんは言う。