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Highlighting JAPAN

ポリオ撲滅への最後の一押し

国際協力機構(JICA)は、ポリオなどの感染症の拡大を防ぐためのプロジェクトを開発途上国で実施している。

グローバル化とともに、感染症が人類の脅威となっている。HIV/エイズ、結核、マラリアの三大感染症の他にも、コレラ、エボラ出血熱など様々な感染症が人々の生命を脅かしている。

一方、ワクチンや治療法の開発により、患者数が激減した感染症もある。その一つが、ポリオである。ポリオはポリオウィルスが人の口から入って、腸の中で増えることで引き起こされる感染症である。ウィルスに感染しても多くの人には病気の症状はあらわれず知らない間に免疫ができるが、一部の人には手足に麻痺が起こり、運動障害が一生の後遺症として残ってしまうこともある。

日本では1980年以降、野生株のポリオウィルスによる患者は発生していないが、開発途上国では長くポリオの流行が続いていた。しかし、流行国に対して、日本を含めた国際社会が継続的な支援を行ってきた結果、1988年には125か国で35万人発生していたポリオ患者が、2016年11月30日時点で、ナイジェリア、アフガニスタン、パキスタンの3か国で34件にまで減少している。人類は1980年に天然痘の撲滅に成功しているが、それに続くものとして、ポリオの撲滅があと一歩にまで迫っている。

JICAは、これら3か国のポリオ流行国に対して、世界保健機構(WHO)、国連児童基金(UNICEF)などの国連機関と連携した支援を行っている。

「一般に、感染症に関してはWHOが各国毎に、支援に関する全体的なプログラムを策定します。それに沿ってJICAなどのドナーは支援内容を調整しています」とJICA人間開発部の山形律子氏は言う。「こうした連携により、効率的、効果的な支援が可能になります」

JICAは、2000〜2012年度にかけ、ナイジェリアにおいて、ポリオの撲滅を目指し、無償資金協力を提供した。UNICEFがこの資金を活用し、ポリオワクチンやワクチン保管用の太陽光発電冷蔵庫を調達した。また、JICAは円借款「ポリオ撲滅事業」を通じ、ナイジェリア全国における5歳未満児に対するポリオワクチンの円滑な接種を支援している。併せて、ポリオ検査の技術向上、人材育成を支援するため、WHOが設立支援したナイジェリアの国立ポリオ研究所において、検査機材メンテナンス能力強化のための研修を2016年2月に実施した。研修では、JICAが派遣した日本の国立感染症研究所のポリオの専門家と、機材メンテナンス指導のためのコンサルタントが、検査診断や検査機材メンテナンスに関する実技指導をナイジェリアのカウンターパートに行った。

また、パキスタンに対しては、1996年以降、同国のポリオ撲滅計画を支援している。JICAはUNICEFを通じたポリオワクチンの調達やコールドチェーン整備のための無償資金協力に加え、ゲイツ財団と連携した円借款「ポリオ撲滅事業」、「ポリオ撲滅事業(フェーズ2)」を通じ、ナイジェリア同様、ポリオ接種キャンペーンに必要となるワクチン調達等の支援を実施している。さらに、パキスタン政府が力を入れている、麻疹、破傷風、ポリオなど9疾患を対象とした予防接種キャンペーンも後押ししている。その一環として2014年から実施しているのが、アフガニスタンと国境を接するハイバル・パフトゥンハー州における技術協力「定期予防接種強化プロジェクト」である。プロジェクトの主な目的はワクチン管理強化、予防接種従事者の技術力の向上、サーベイランスの強化や啓発活動で、2019年を目標としているパキスタンにおけるポリオの撲滅にも貢献することが期待されている。

さらに、アフガニスタンにおいても、JICAはUNICEFと連携した支援を行っている。例えば、2016年2月、JICAはUNICEFを通じて、ポリオや麻疹などのワクチン供与を通じた、定期予防接種率の向上、ポリオワクチン接種キャンペーンの質の向上を目的とした無償資金協力「小児感染症予防計画」を実施した。この支援を通じて、1歳未満の乳児約120万人に対するポリオ、結核、はしか、B型肝炎の予防接種、妊娠中の女性約250万人に対する破傷風ワクチンの接種が行われている。JICAはまたアフガニスタンにおいて、無償資金協力による結核対策施設の整備、並びに機材及び薬剤の供与、公衆衛生省行政官や臨床検査技師を対象とした能力向上支援も実施している。

「2014年、ナイジェリアでエボラ出血熱の患者が発生しましたが、国際社会と連携し、ナイジェリアはいち早く封じ込めに成功しました。これは、ナイジェリアが培ってきたポリオ対策の経験が役立ったためと国際的に高く評価されています」と山形氏は言う。「JICAとしては今後、各国の保健システムの強化をさらに支援していくことで、感染症予防、保健衛生の改善に貢献していきます」