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Highlighting JAPAN

勝利を呼ぶ車いす

「オーエックスエンジニアリング」がオーダーメードで作る競技用の車いすは、世界中のパラリンピアンに愛用されている。

1988年創業の、千葉県千葉市の「オーエックスエンジニアリング」(以下、オーエックス)は、競技用車いすの世界的なメーカーである。オーエックスは1993年に競技用車いすに参入、1996年のアトランタ・パラリンピック以降、オーエックスの車いすを使用した国内外の選手が夏のパラリンピックで獲得したメダルは70を超える。2008年の北京・パラリンピック、2012年のロンドン・パラリンピックで金メダルを獲得した車いすテニスの国枝慎吾選手もその一人である。2012年のロンドン大会では、車いす陸上競技の選手の約5分の1がオーエックスの車いすを使い、計13個のメダルを獲得している。

陸上競技用の車いすで、特に重要な部品が「メインフレーム」だ。メインフレームは前輪と後輪とをつなぎ、選手を支える機能を果たす。

「選手は後輪をこぐ時、体が激しく上下に動きますので、メインフレームには大きな力がかかります」とオーエックスで陸上競技用の車いすの設計・製造を担当する小澤徹氏は言う。「メインフレームには、それを支えるだけの強さとしなやかさが必要です」

オーエックスは強くしなやかなメインフレームを実現するために、様々な形状や材質を試行錯誤してきた。オーエックスは主にアルミニウムを使っているが、2012年に従来よりも軽く強度にも優れたカーボンファイバーを使った陸上競技用の車いすを発売した。カーボンファイバーのメインフレームは振動吸収性が大きいため、選手は疲れにくくなる。ロンドン以降、カーボンファイバーを使った車いすの開発競争は加速しており、リオデジャネイロ・パラリンピックでは、ロンドン大会よりも、さらに多くの選手がカーボンファイバーを使った車いすを採用することが予想されている。

競技用車いすの製造段階で、溶接はもっとも気を使う作業の一つだ。溶接すると熱で車いすのフレームが微妙にひずむため、このひずみを計算しながら慎重に行う必要がある。競技で勝つために、トップクラスの選手が要求する水準は非常に高い。ある海外の陸上競技選手は、一週間程日本に滞在し、オーエックスで小澤氏と直接意見を交換しながら試乗を繰り返し、自分に最適な車いすを作り上げていった。

「私たちの強みは、選手にぴったり合った車いすを作ることです。私は約15年で、1000台以上の車いすを作っていますが、どれ一つ同じものはありません」と小澤氏は言う。「見た目の格好良さにもこだわっています。格好良いもののほうが、選手も気分良く乗ることができます」

競技用の車いすは、障害の度合い、体格、力の強さに合わせてオーダーメードで製作されるため、必ずしも利益の大きいビジネスとはいえない。オーエックスの生産する車いすの9割は日常用の車いすだ。競技用の車いすを開発する中で蓄積される素材、形状、製造技術に関する知見は、日常用の車いすの開発、製造にも活用されている。

今や競技用の車いすの開発は先端技術を駆使した非常に高度な競争になっている。例えば、陸上競技用の車いす開発では、いかに空気抵抗を抑えるかが重要な課題となっている。マラソンレースの場合、車いすの平均時速は30km、下り坂では時速約60kmを超える場合もある。空気抵抗の増加につながる余分な突起を限りなく少なくした車いすの開発が進められている。

「今後、動作解析や強度解析を通じて、選手が最も力を発揮しやすいシートの位置を探るといったことも行いたいです。また、車いすの材料として、もっと多くの素材を試してみたいです」と小澤氏は言う。「改良できることがまだたくさんあると思います」