Home > Highlighting JAPAN >Highlighting Japan July 2016>科学技術

Highlighting JAPAN

エボラを迅速に判定

日本の研究者がエボラ出血熱をわずか10分で判定できるポータブル型の検査キットを開発した。

急速なグローバル化が進む世界において、感染症を防ぐことは人類の重要な挑戦だ。エボラ出血熱はその代表的な例である。2013年末から2016年初頭にかけて西アフリカを中心に流行した時には1万人以上の死者を出した。感染力が強く、有効な治療法もない。

エボラ出血熱の広がりを抑えるためには、他の感染症と同様に、感染の有無を迅速に検査することが重要だ。診断が早くなればなるほど二次感染が防げる確率も高くなる。しかし、従来、血液や、尿、唾液、痰に含まれるエボラウイルスの検査・判定には、1時間以上かかっていた。そうした中、2015年、東芝メディカルシステムズと長崎大学・熱帯医学研究所の安田二朗教授は、高い精度を保ちつつ、検査・判定時間を10分に短縮する「エボラ出血熱迅速検査キット」の開発に成功した。

その検査方法は、まず感染が疑われる人から採取した血液から核酸を抽出する。その核酸と、エボラウイルスの特定遺伝子に反応する「プライマー」と呼ばれる物質が入った遺伝子増幅用試薬とを容器で混ぜる。そして、その血液を新たに開発した装置にセットして温める。もしエボラウイルスが含まれていれば、ウイルスの遺伝子にプライマーが反応し、検査結果がタッチスクリーンの画面に表れる仕組みだ。その軽量の装置は、1.5時間の充電で3時間駆動する。

2009年、東芝メディカルシステムズと安田教授はDNAチップを用いて炭疽菌など約20種の生物剤を同時に判別することができる検査システムを実用化し、バイオテロ対策として警察などの公的機関で装備されている。

「この検査システムでもエボラウイルスを検出することは可能でしたが、判定にやや時間がかかり、装置も大きかったです」と東芝メディカルシステムズ分子検査ソリューション事業推進部の後藤浩朗氏は話す。「今回開発した検査キットは重さが2kgで、エボラ出血熱の判定に特化しています」

2015年3月、安田教授と黒崎陽平助教ら長崎大学の研究グループは、エボラ出血熱が流行中の西アフリカのギニア共和国の首都コナクリの国立ドンカ病院 で検査キットの検証実験を約1週間にわたって行った。

現地のスタッフからは、検査キットが、短時間で検査結果を得られることや、持ち運びが便利であること、使いやすいことなどが高く評価された。

ギニア政府からの要請に応え、日本政府は検査キットを3セット、無償供与した。再び安田教授と黒崎助教がギニアを訪れ、ドンカ病院での技術指導を実施している。さらに、移動式の検査車両に検査キットを積み込んで、首都から東へ50km離れたコヤ県コヤ市でも検査を行った。

「病院の外で検査を行う時は、検査キットの装置の軽さや操作性の高さが、非常に重要になります」と後藤氏は言う。「現地では停電がよくありますが、検査の途中で停電が起きても内蔵のバッテリーで動くので、検査を一からやり直す必要がありません」

その後、世界保健機関(WHO)は2015年12月にギニアでのエボラ出血熱の流行終息を、2016年1月には、西アフリカでのエボラ出血熱の流行終息を宣言した。しかし、その後も予断は許さない。流行を早期に抑えるために、今後も検査キットの役割は重要となる。

東芝メディカルシステムズは今年6月から、検査キットの技術を活かし、さらに多くの感染症のDNAの判定が可能な装置「Genelyzer™ Fシリーズ」と検査用試薬の販売を、研究機関に向けに開始している。

「世界では今後も、エボラ出血熱だけではなく、デング熱やジカ熱など様々な感染症の流行が懸念されています」と後藤氏は言う。「この装置を通じて、そうした感染症の即時判別を可能にすることで、弊社として世界に貢献していきたいと考えています」