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Highlighting JAPAN

ケニアのグリーントイレ

日本の衛生設備メーカーがケニアの非都市部で、循環型無水トイレ技術の導入に取り組んでいる。

2013年7月、改善された衛生施設と安全なトイレへのアクセスに対する関心を喚起するため、国連総会において、11月19日を「世界トイレの日」(World Toilet Day)と制定する決議案が採択された。世界保健機構(WHO)と国連児童基金(ユニセフ)によると、世界人口約70億人の約3分の1に相当する約24億人が衛生的なトイレがない生活を送っており、そのうち10億人弱が野外で排泄している。不衛生な食べ物や飲料水、あるいは、不衛生な環境での人との接触を原因とする下痢性疾患で命を落とす5歳未満児は、毎年約76万人にのぼる。安全な飲料水、改善された衛生施設の利用、石鹸での手洗いなど下痢を防ぐ行動は、病気になるリスクを減らす。

日本の建材・住宅設備機器メーカーのLIXILはグローバルな衛生課題の解決に向けて、トイレの提供を通じて、2020年までに世界で1億人の人々の衛生環境を改善することを目標に掲げている。

その一環としてケニアで実施しているのが、循環型無水トイレ(グリーントイレシステム)の実用化を目指すプロジェクトだ。このプロジェクトは、2014年に国際協力機構(JICA)の「開発途上国の社会・経済開発のための民間技術普及促進事業」の第1回案件に採択され、本格的にスタートした。

ケニアでは、ナイロビなど都市部の水洗トイレの普及率は約50%まで達しているが、都市周辺部や農村部では下水道の整備が遅れており、多くの人が旧式の汲み取り式トイレを利用しているが、排泄物の処理が適切に行われないケースも少なくない。非都市部でグリーントイレシステムが設置されることは、清潔で心地よい衛生施設の増加につながる。また、このトイレは排泄物を肥料化し、地域の農業にも有効活用することができる。

「日本では古くから、排泄物を分解・発酵し安全な肥料に再資源化してきました」とケニアでのプロジェクトを担当するLIXILの山上遊氏は言う。「グリーントイレシステムは、日本のこの伝統的な排泄物の処理技術を応用したものです」

グリーントイレシステムの特徴の一つは、尿と便を分離することで、アンモニア臭の発生を抑え、排泄物の肥料化を容易にする点である。

プロジェクトの実証実験は都市部のスラムと都市周辺部の町で行われている。その目的は、現地のパートナーと共に、ケニアの気候風土や現地の人々の暮らしに合ったトイレシステムを作り上げていくことにある。

プロジェクトでは、トイレのタンクに貯まった排泄物をコンポストセンターに運び、肥料化している。その土地で暮らす人々が排泄したものを肥料として自然に還すという循環型社会の構築を目指す。

山上氏は、実証実験トイレの導入のためにケニアのパートナーを探す際、実際に排泄物から作られた肥料を持参するようにしていた。これで彼らの抵抗感もなくなると山上氏は言う。

「安全で、さらさらした土の様な状態となった肥料を見て、ケニアの人々は驚いていました」と山上氏は言う。「いったん大きな関心が得られれば、ケニアの人々は問題点や改善点を積極的に提言してくれます。ケニアの人々はグリーントイレットシステムに大きな期待を寄せています」

あるスラムの住民は、「排泄物由来の肥料には当初抵抗があったが、何が使われているかわからない肥料を使うよりも、人間の排泄物を肥料にするほうが安心できると気付いた。ここでのプロジェクトが成功すれば、ケニアだけでなく世界中のスラムの衛生を変えるきっかけになる」と語っている。

現在、グリーントイレシステムの実証試験は、「ケニア有機農業専門学校」に2台のトイレを設置して継続中だ。並行して、山上氏はビジネスとしての可能性も調査しており、グリーントイレの技術や、実現に向けた金銭的側面、肥料の高付加価値化に向けた研究も行っている。さらに、日本にいる開発チームは、ケニアの実証実験のフィードバックを受けて、使い勝手の改良だけでなく、現地の大工が施工しやすいトイレの設計を進めている。

「トイレを作る会社だからこそ、排泄物の処理の問題も考えることが重要です」と山上氏は語る。「私たちは、下水道がほとんど整備されていない地域でのトイレの普及というビジネスに参入する初めての大手企業です。私たちがそこに新たな市場を作り出すことは、世界の衛生と環境の問題を解決することにつながると信じています」