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Highlighting JAPAN

デジタルで拡張する美

「デジタルという概念は美の領域を拡張する」と考える、猪子寿之氏率いるチームラボは、デジタルメディアの可能性を追求している。

プログラマ、エンジニア、数学者、建築家、デザイナー、アニメーターなど約400名のスペシャリストが集まる「チームラボ」によるインタラクティブなデジタルアート作品が、国内外で高い評価を得ている。

これまでの鑑賞者とアート作品との関係を変える、美しく、そして、驚くべきインスタレーションによって、鑑賞する人はまるでそのアートの世界に足を踏み入れているかのような感覚を得られる。

例えば、江戸時代の絵師、伊藤若冲(1716〜1800)の作品をモチーフにしたインタラクティブ作品「世界は、統合されつつ、分割もされ、繰り返しつつ、いつも違う」は、繊細な線で描かれた升目画の世界と、升目ごとに抽象化された世界とが、鑑賞者の存在により入り混じる。「お絵かき水族館」では、自分で紙に描いた色とりどりの魚がまるで命を吹き込まれたようにバーチャルな海に映し出され、スクリーンに近づけば、魚がいっせいに逃げ出す。

このチームラボを率いるのが猪子寿之氏である。猪子氏は2001年に5名のメンバーとともにチームラボを創業した。

「デジタルは“新しいマテリアル”だと思っています」と猪子氏は言う。「デジタルという概念によって、絵画、彫刻、空間の境界が非常にあいまいになりました。デジタルという概念が美の領域を拡張したのです」

チームラボの作品は、今年2月からシンガポールのアートサイエンスミュージアムで常設展が開始されるなど、世界各国に広がっている。2015年のミラノ国際博覧会で「BEST PRESENTATION賞」を受賞した日本館で展示されていた「HARMONY」も、チームラボの作品である。そのモチーフは、日本の象徴的な風景である「水田」だ。稲穂に見立て、さまざまな高さでつくったスクリーンで空間を満たし、腰から膝ほどの高さに映像が無限に広がるインタラクティブな映像空間をつくりあげた。鑑賞する人は、まるで稲穂を分け入るかのようにその映像空間の中を歩き回りながら、四季によって変化する自然を体感することができるのだ。

チームラボのデジタルアート作品は、日本の古典的な美術を通じて、昔の日本人がとらえた世界観を巧みに表現しているものが多い。

「近代以前の日本人は僕らとは違う世界が見えていたのではないでしょうか。つまり、空間認識に大きな違いがあったと思います」と猪子氏は言う。「例えば、古典的な日本画は現代人には平面的に見えます。しかし、そこには、近代以前の日本人の、西洋で生まれた遠近法に基づくものとは異なる、空間認識が表現されているのではないでしょうか」

現代人が遠近法を使った絵の中に三次元空間を認識できるように、近代以前の日本人は、現代人から見れば平面的な日本画から、三次元空間を認識できたであろうと猪子氏は考えている。

チームラボはそのような昔の日本人が認識したと思われる空間を「超主観空間」と呼んでいる。チームラボは超主観空間を、鑑賞する人が自由に歩き回りながら体感でき、一人ひとりのふるまいによって自由に変化するデジタルアートとして表現しているのだ。こうした独自の世界観も、チームラボの作品が異彩を放ち、多くの人を惹きつける要因の一つであろう。