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Highlighting JAPAN

柑橘類の風味で溢れる島

柑橘類の生産は日本の瀬戸内海沿岸地域の一大産業となっており、2つの小さな村では大量の柑橘果物が生産されている。柚子とすだちは、その爽やかな味と香りから特に評価が高く、健康にも良い効果をもたらす。

柑橘類は、酸味があり爽やかな果汁と皮、そして果肉がメインディッシュからカクテル、デザートに至るまであらゆるものに合う風味をもつため、料理の材料として世界中で人気がある。レモンやライムは、西洋料理で使われる代表的な柑橘類といえるだろう。日本には、独自の風味豊かな柑橘類がたくさんある。例えば、広島県はレモン、愛媛県は甘くておいしい温州みかんで有名だ。大分県のかぼす(ライムに似た果物)も人気がある。

このほか、日本で特に好まれている柑橘類といえば柚子とすだちで、幅広い料理に合うことと、独特の芳しい風味がその理由だ。日本の主要4島の中で最も小さな島、四国は、こういった日本の柑橘類の生産が特に盛んな地域だ。風光明媚なこの島は、瀬戸内海を挟んで本州の西側に位置しており、その気候はイタリアやギリシャ等地中海の国々と同様で、あらゆる種類の柑橘類、特にすだちや柚子の生産に適している。

徳島県中央部の四国山脈にある小さな町、神山町では、年間1300トンのすだちが生産されており、これは日本最大の収穫高となっている。すだちは、ライムに似た果物で、かつては高級レストラン以外ではなかなかお目にかかれなかったが、特産地の誇りから地元の料理には惜しみなく用いられ、現在は全国的にカジュアルなレストランでも食されている。大規模な栽培は1956年まで行われていなかったが、神山町では、樹齢2世紀以上の古木があり古くから栽培されていたと考えられる。すだちは収穫後冷蔵保存することで美味しい状態のまま長期間保てる。神山町は冷却技術を積極的に取り入れたことで生産が盛んになり、日本全体で高まるすだちの需要に応えることができるようになった。

この小さな果物は抗酸化物質とビタミンが豊富で、疲労の軽減、カルシウムの吸収促進、血糖値上昇の予防といった健康上の利益を四国の人々は称賛している。すだちは、塩や醤油の代わりに使用すればナトリウム摂取を減らして生活習慣全体を健康的なものにすることにもつながる。

その味に馴染みのない人にとっても、すだちにはやわらかな風味と強い酸味があるため、ほかの多くの食材にとても良く合う。すだちがほかの食べ物の風味を引き出すことは調理人も認めるところだろう。また、すだちの特に芳しく、爽やかな香りは皮の部分にあり、果汁を料理に加えたときに、ほかの食材の風味を殺すことがないため、すだちの皮は理想的な食材といえる。

「観月茶屋」(神山町のレストラン・宿)は、自信をもって地元の食材を取り入れた食事をふるまっている。すだちはどんな食材に合わせても絶妙に味を高めることができ、おいしい刺身や唐揚げ(日本式のフライドチキン)に隠し味を加えるなど、料理をさらにおいしくすると観月茶屋の料理長・山田充氏は教えてくれた。から揚げは、すだちを食べて育った鶏を塩すだちに漬け込み、揚げた後にすだちの果皮を擦ったものかけて作られ、神山のすだちを贅沢に楽しめる。

神山町の農家、橋本純一氏は、60年間すだちを栽培しており、その仕事に強い誇りを持っている。83歳の今も精力的に働く橋本氏は、完璧に刈り込まれたすだちの果樹園を案内し、自らの仕事を情熱的に語る。橋本氏は、豆腐や魚にすだちをたくさん搾って食べるのが好きだという。

すだちサイダーも神山町のご当地品で、非常に爽やかでコクがあり、程よい甘さと酸味が特徴の飲み物だ。すだちは、ピルスナービールの風味さえも高める。独創的な料理人にとって、すだちの用途はほとんど無限大といっても良い。

神山町から曲がりくねった山道を3時間半ほど進むと、高知県の馬路村がある。日本有数の美しい村に挙げられる馬路村の人口は1000人足らずだ。その規模にもかかわらず、馬路村は柚子(独特の強い風味と酸味をもつ日本の柑橘類)の一大生産地で、村民のほとんどが柚子の生産に関わっている。近年、柚子の人気は非常に高まっており、特に西洋の料理人が柚子が持つ独特の風味を見出したこともあって、世界中で柚子の需要が飛躍的に高まっている。

馬路村の柚子農家、岡林栄作氏は、時間をかけて柚子の木を剪定する。柚子の木の世話に費やす時間が長ければ長いほど、味の良い柚子が育つのだと岡林氏は説明する。そのため、柚子農家の仕事はほとんど年中無休だ。というのも、柚子農家は、育ちすぎた枝を剪定したり、害草が育たないよう警戒したりして、いつでも作物を改良する術を模索しているからだ。岡林氏は自身の育てる柚子に大きな自信を持っており、木から摘み取ったばかりの柚子をそのまま食べる様子を見せてくれた。

馬路村温泉(公衆浴場、民宿、コミュニティセンターが一体となった施設)のレストランでは、料理人がほぼ全ての料理に柚子を取り入れており、塩と同じくらい柚子が万能な食材だということを証明している。このレストランの柚子寿司と柚子シャーベットは特においしい。また、飲料水にも柚子が浸されている。地元民が入る風呂にも柚子を浸した水が使用されているが、これは、肌に良い効果があるビタミンが柚子に含まれているからだ。

馬路村の中央部には、川の畔に柚子の森加工場という美しい建物があり、柚子の飲み物がつくられている。柚子の森加工場には、柚子の研究施設もあり、研究者が様々な柚子の利点を研究している。この加工場のもうひとつの特徴として、馬路村と柚子を世界に向けてアピールするグラフィックをデザイナーが制作しているデザインスタジオがある。

近年、柚子は現代風の西洋料理において非常に人気が高まっているが、これは馬路村の研究とマーケティングがもたらす良い影響の表れかもしれない。柚子の森加工場では、馬路村の人口の約10%に相当する村民が働いている。彼らはその仕事を大いに楽しんでおり、柚子ジュースや調味料など、柚子商品の箱詰めを大勢で行っている。

馬路村では、わずか3種類の材料(柚子、水、はちみつ)から作られていながらも非常においしい“ごっくん”という人気の飲み物もつくられている。

四国の柑橘類は、地元農家がその生産に投じる努力と情熱、高い水準ゆえに特別な果物なのだ。海外の国によっては日本の柑橘類に検疫条件を設けているが、日本では徹底した品質管理体制が確立されており、相手国からも高い信頼を得ている。腕の良い独創的な料理人にとって、四国の柑橘類はどんな料理でも、その味を高める食材となる。日本のこの地方の素晴らしさを良く知らない人々も、四国の農家や職人が生産し、発信する柑橘類の味わいを通じて、日本の魅力を垣間見ることができるはずだ。