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Highlighting JAPAN

長寿のために良いことは3つある

武庫川女子大学国際健康開発研究所所長 家森幸男教授インタビュー

1世紀以上生きている国民が5万人を超える日本は、平均寿命の長さが世界トップクラスを誇る。一般的に日本食は栄養が豊富であるといわれる一方で、土地やライフスタイルなどの他の要因は長寿にどの程度影響しているのだろうか。それを明らかにするため、世界的な予防栄養学者であり長寿の専門家である家森幸男教授に話を聞いた。家森教授は武庫川女子大学国際健康開発研究所の所長を務め、25ヵ国61地域で食事について研究している。長寿における日本食の役割と、健康と長寿にとって重要な他の要因についてうかがった。

日本食と長寿はどのような関係がありますか

日本人女性の平均寿命は世界一の87歳で、日本人男性もトップ10圏内です。日本食はその重大な要因になっています。日本の気候や地形が健康的な食事に貢献してきました。日本は島国であるため魚を入手しやすく、刺身のような新鮮な形で摂取することができます。魚は有益なオメガ3脂肪酸が豊富で、一般的に海産物は貴重なマグネシウムやタウリンを供給してくれます。日本の気候は、コレステロールが非常に低い米や大豆の生産にも適しています。これらの理由により、日本人が冠状動脈性心疾患にかかる割合は世界で最も低いのです。

しかし、日本食のデメリットは塩化ナトリウムの摂取量が高く、カルシウムの摂取量が低くなる場合があるということです。なぜなら、日本食でよく使われる醤油や味噌などには多くの塩分が含まれ、一方でカルシウムを多く含む乳製品を摂取する習慣が日本にはなかったからです。日本全体でみてみると、私たちの調査により、青森県北部などの塩分や保存食の摂取量が多い地域は、沖縄のような塩分の摂取量が少ない地域に比べて、健康や長寿の面で差異があることが分かりました。塩分の摂取量が多いと脳卒中や胃癌による死亡率が高くなり、平均寿命も短くなります。

他国の調査では、健康や寿命に関して食事のどのような点が明らかになりましたか

私たちの生命は遺伝子によりすべてが決定されるわけではありません――私たちの寿命は、良質な食習慣やライフスタイルで改善することができるのです。沖縄の人々は、かつて日本でもっとも長い平均寿命を誇っていました。そこで、私たちは海外へ移住した沖縄の人々がどのようになったかを調査しました。特にブラジルには、沖縄出身の日系人による大きなコミュニティがあり、そこでは肉が安く手に入ります。彼らは以前より多くの肉を食べる一方で大豆や魚の摂取量が減少したため、糖尿病の発症率は劇的に増加しました。

オーストラリアのアボリジニーたちは、伝統的に自然の中で暮らし、ナッツやベリー、野菜、赤肉などを食べてきました。私たちが調査したところ、現在オーストラリアの都市部に住んでいるアボリジニーたちは、小麦や塩分、砂糖、肉、脂肪を多く含む食事をしており、肥満に苦しみ、その寿命は大変短くなっているということが分かりました。対照的に、より田舎の海に近い地域に住み、魚を食べているアボリジニーたちは、結果的にもっと痩せていて、より長生きで健康的な生活を送っているのです。

このような調査結果より、長寿に必要な栄養摂取を考えた際、私たちは「塩分の低摂取 (salt)、海産物 (seafood)、大豆 (soy)」からなる「3つのS」というコンセプトにたどり着きました。この考えに基づくと、高血圧や胃がんを引き起こす塩分は制限しなければなりません。冠状動脈性心疾患の予防に役立つオメガ3脂肪酸を摂取するため、海産物はより多く食べるべきです。そして、肌や臓器の血のめぐりを良くして若返らせ、がんを予防するイソフラボンを大量に含む大豆は、より多く摂取しなければなりません。

長生きするために大事な要素は他にありますか

寿命には様々な要因が複合的に関わっています。世界の平均寿命ランキングで日本に次いで2位に位置づけた香港でもそれが明らかになりました。日本と同様に香港でも――この点は向かいにある広東省でも同様ですが――新鮮な魚や野菜が多く食べられ、「食の健康」によいのです。香港はまた、土地が狭いため、人々はアパートの階段や斜面を上り下りして毎日運動することになり、「からだの健康」によいのです。そして、スペースの制限上、都市部の高層マンションの1室に大家族の全員が住むことはできませんが、同じ建物の別の階など近くに住み、家族で集まって一緒に食事することが多いのです。この家族関係は年長の家族に敬意と感謝を示し、「心の健康」を支える良い機会となります。

以上のことから、全体として長寿には食とからだと心の3つの要素があると言うことができます。栄養は疑いようもなく重大な要素ですが、運動と健全な精神も同様に重要なのです。