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Highlighting JAPAN

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なぜここに外国人

将軍のゲーム(仮訳)

人気のジャパニメ―ション・シリーズに少しだけ登場した奥深いボードゲームである将棋は、カロリーナ・ステチェンスカさんを魅了し、オンラインで対戦相手を探すようになり、ついには日本に来てより深く学ぶようになった。いまや彼女は、「将軍のゲーム」として知られるこの競技でもっとも高いランクを与えられた外国人女性でもある。

木で作られた駒が将棋盤の上に置かれるたび、パチっという凛とした音が響き渡る――そこには王将を筆頭に、金将、銀将と続き、最前列には歩兵が並ぶ。2人の対局者は互いに礼をし、それから戦略と精神力を競う戦いが始まる。

カロリーナ・ステチェンスカさんは、将棋でプロ棋士3級に昇進し、女流プロ棋士となった。将棋界初の外国人プロの誕生であり、当然、外国人女性としても初めてのことだ。(将棋には武道と同じようにアマチュアにもプロにも段と級がある)彼女はプロ棋士の世界に参入する構えで、ここまで来るのにわずか数年しかかからなかった。彼女の生い立ちはどういったものだったのだろうか。

ポーランド人のステチェンスカさんが最初に将棋 (よく日本版のチェスと呼ばれている) と出会ったのは、彼女が16歳のときだった。アニメシリーズ『NARUTO -ナルト-』に登場する忍者・シカマルが、その知性を将棋と忍者バトルの両方に生かすのを観た。その頃既にチェスをプレイしていたステチェンスカさんは興味を抱き、その競技について調べ、将棋をオンラインで遊べる「PlayOK」というポーランドのゲームサイトを見つけた。

「インターネット上で将棋を試してみたら、すぐに好きになってしまいました」と彼女は当時のことを振り返る。「毎日、毎日プレイするようになりました」。彼女は特にチェスとの決定的な違いに興味を持った。それは、対戦相手の駒を取り、使うことができるという「持ち駒ルール」である。彼女は仲間を募るようになり、まもなく自分が住んでいるワルシャワで将棋クラブを立ち上げた。

2010年、日本を拠点としたウェブサイト「81Dojo」が登場し、リアルタイムで将棋の対戦ができるようになった。ステチェンスカさんがこのサイトで遊んでいるうちに、サイト設立者の一人でありプロ棋士の北尾まどか氏に注目されるようになった。ステチェンスカさんの腕前に感心した北尾氏は、2011年に日本へ来て将棋をするように彼女を誘った。ステチェンスカさんは2週間の間将棋の世界に没頭し、毎日対局した末に女流プロ棋士のトーナメントでプロの相手を打ち負かした。ステチェンスカさんにはアマチュア4段の資格が与えられた。

ステチェンスカさんはヨーロッパ中で対局し続け、同時期に開催されるポーランドの国内大会や「ヨーロッパ将棋選手権」、「ワールドオープン将棋選手権」に参加した。2012年に再度日本に招かれ、前回と同じトーナメントに参加。まもなく日本への移住を決め、大学の勉強を続けるとともに将棋への情熱を追い求めることにした。

現在ステチェンスカさんは、山梨学院大学の経営情報学部で、日本語の勉強、そして故郷のポーランドはじめヨーロッパでの将棋の促進を含む将棋関連活動とのバランスを保っている。2014年、彼女は「ワールドオープン将棋選手権」と「ヨーロッパ将棋選手権」でトロフィーを獲得し、両方のトーナメントで優勝するとともに「ベスト・フィメール・プレイヤー」の称号も手にした (彼女はどちらのトーナメントにおいても最強の選手だったため、この栄誉は不要だったように思われる)。2015年、彼女は将棋のイベントが行われたポーランドの日本フェスティバルにも参加するとともに、在ワルシャワ日本大使館でスピーチを行い、何局か対戦を行った。

この将棋というゲームは海外でも一定の人気を得るようになった。ステチェンスカさんは、より多くの若者たちが将棋で遊ぶように促進したいと思っている。「ワールドオープン将棋選手権」と「ヨーロッパ将棋選手権」には、何人かの十代前半の若者たちが参加した。彼女はこれを大きな進歩だと考えている。

「将棋は楽しいゲームです」とステチェンスカさんは断言する。「楽しむことができれば、簡単に学ぶことができます。もちろん、負けるという側面もありますが、それにめげずに前進し続ければ、将棋に強くなれます。ただし、楽しむことは決して忘れないでください」。ステチェンスカさんは、故郷に戻ったときに感じたニーズを埋められるような、ビギナー向けの将棋の本をポーランド語で書きたいとも思っている。その本には、文化的背景の説明や、ルールや対局の説明、対局のサンプルなどを掲載する予定だ。

ステチェンスカさんは、将棋が自分の人生に大きな影響を与えたと話す。「将棋にのめり込むことがなければ、日本語を学ばなかったでしょうし、日本にも来なかったでしょう」と彼女は語る。「シンプルなことのようにも思えますが、実際は大きな変化です。これが、私が一日中、痛くてしょうがない正座をしている理由です。もし私が長い間将棋から離れることになり、そしてまた再会したら、『あぁ、ずっと会いたかった!』となるでしょう。これは愛と言えるのかもしれません」。このステチェンスカさんの愛は、世界に向けて将棋を次の一手へと推し進めてくれることだろう。

 



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