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Highlighting JAPAN

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日本の秋

秋の味覚の代表格(仮訳)

秋に収穫の時期を迎える和栗。日本において栗は秋の味覚の代表格でもあり、栗ご飯や和菓子などとしても人気が高い。栗の名産地として名高い有名な長野県小布施町を訪れ、その魅力を探った。

栗はフランスやイタリアなどではナッツ類の延長という意識で、焼き栗や甘い焼き菓子の素材、料理の添え物として食べられることはあっても、主食になることはないという。世界の他の地域では、栗に対して無関心だったり、場所によっては「家畜の餌」という認識だったりもする。

日本の栗は食材として非常に洗練された味と香り、色を持ち、秋の味覚の象徴と言ってもいいほどの存在だ。日本には栗を食する長い歴史とバラエティに富む食文化がある。旬の概念を大切にする日本では、新米に栗を混ぜて炊き上げる栗ご飯も一般的で、人々はそれを主食として味わい、秋の到来を喜ぶ。また、栗は伝統的な和菓子の素材としても様々な方法で用いられており、栗羊羹や栗きんとん、栗饅頭などが定番だ。

その中でも何百年も人々の間で珍重されてきた上等なブランド栗が、長野県小布施町の「小布施栗」である。小布施を訪れると、北側に山があり、南側は平地であることに気づく。「この平地は松川の扇状地で、土は松川の水の影響を受けた酸性です。この酸性土壌が小布施栗の味の秘密だと言われています」と、高井鴻山記念館館長の金田功子さんは説明する。金田さんは小布施町に生まれ育ち小布施栗の研究もしており、「日本の歴史ドラマの主人公としても有名な、江戸時代の水戸光圀公の食の記録に、『栗』と『小布施栗』は別々に表記されています。これはつまり、当時から小布施栗は他の栗とは別格であったということです」と、誇らしげに語る。

小布施町で有名な栗農家、平松農場へ伺うと、その日は栗の収穫日だった。人々が栗畑で次々とイガと栗を拾い集める作業を見ていると、その栗の5センチ以上にも及ぶ大きさや美しく光る鬼皮(一番外側の硬い皮)の艶に驚く。平松家の13代目となる平松農場の平松幸明さんは、海外での農業研修を終えて父親から農場を受け継いだ。栗の木を低木に仕立てることで栗の粒を大きく作ったり、収穫した栗の選果作業工程を確立したりと、小布施栗作りをさらに改良し、高品質の栗をより安定的に消費者の元へと届ける努力をしてきた。

選果作業は細密の一言だ。女性たちが栗をひとつひとつ見て、割れや虫の入った穴がないかを確認し、重さや大きさを測って選り分ける。虫が入った穴は針の先ほどの大きさだが、それさえ見逃さない精度の高さが平松流の品質だ。この道25年のベテラン、平松さんは「まだまだ腕が全然足りません」と謙遜するが、平松農場の栗を毎年心待ちにしている顧客から電話やインターネットでたくさんの注文が寄せられるなど、彼の栗の美味しさはお墨付きだ。

「小布施の栗は、ぜひ素材をそのまま味わってもらいたい」と平松さんは言う。ヨーロッパやアメリカ、中国にも栗はあるが、和栗の特長は自然な甘みとほのかな香りであり、中でも小布施栗はホクホクとした独特の風味が格別に美味しい。金田さんによれば、小布施の町では昔はどの家にも栗の木があり、幼い頃の秋のおやつといえば茹で栗だった、と回顧する。栗林は四季を通じて情緒的で美しく、文学にも描かれてきたという。「ぜひ一度、小布施の町を見にきて、この栗を食べてみてほしい」。金田さんと平松さんの二人は偶然にも、同じ願いを口にした。栗への愛情や愛着でひとつになった町、小布施には、香り高い日本の文化が静かに息づいている。




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