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Highlighting JAPAN

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日本の秋

茅のある風景を伝える(仮訳)

かつて宿場町として栄えた大内宿では、藁葺き屋根の民家を残すため、毎年11月になると茅刈りをすることが伝統的な風習となっている。

福島県の南会津に位置する旧宿場町、大内宿。江戸時代(1603~1868)、江戸(現在の東京)へ向かう大名や旅人の宿駅として重要な役割を果たした。現在でも、旧街道を挟んで30軒以上の茅葺き屋根の民家が残り、当時の面影を色濃く残している。この地方で晩秋になると行われる伝統的な風習が、藁葺き屋根の材料となるススキを刈る「茅刈り」だ。

江戸時代に栄えた大内宿は、明治時代に入ると新しく開通した国道から外れてしまい、寂れた寒村となった。しかし高度経済成長期に大川ダムの建設が始まると、雇用が生まれたことで人々の生活は潤い、茅葺き屋根は次々とトタン板に替えられていった。

「ダム工事の終盤頃から『その後』について皆が考え始めました。貧しい生活に後戻りするのは嫌だけれど、茅葺き屋根の集落として保存していくためには日常の生活に支障が出るのではないかと迷いや不安を抱えていました。しかし、その頃から観光客が増え始め、観光産業でやっていけるという実感を持つことができたことが、保存決定を後押ししました」と大内宿保存会会長の佐藤一夫氏は振り返る。

こうして1981年に文化庁伝統的建造物群保存地区の指定を受け、茅葺き屋根の修復が本格化した。

茅刈りは、毎年農作業がひと段落する11月の晴天の日に行われる。この地域は日本の東北部に位置し、冬になると積雪する場所として知られる。ススキの水分量が多過ぎず、かつ初雪が降る前という気候的な要因も重要となる。かつては屋根裏に茅を保存し、冬季に使用する囲炉裏の煙で燻蒸効果もあったというが、現在ではもう行われていない。

茅刈りは集落内の荒れた畑や茅(ススキ)の群生地で約40人によって行われる。ススキをまとめて鎌で刈るだけで特別な技術は必要ないというが、体力を使うことは間違いなく、現在は高齢化が進んだために刈る人も少なくなって集落だけでは茅の確保が難しくなり、業者がストックしている複数地域の茅を購入しなければならないそうだ。刈った茅は雪が溶ける春まで畑に立てて乾燥させた後、倉庫に保存するが、同年内には使い切って足らない。

葺き替え作業は、基本的には乾燥させた茅を藁などで結んだものを、「旧新旧新」の順に重ね、竹で留めるという作業を屋根の下から上に繰り返すもので、特に上部と側部は茅葺き職人の高度な技術が求められる。

大内宿では若い茅葺き職人育成のために、廃校になった地元の校舎に練習用の屋根を作って毎週指導の場を設けており、平均10名ほどが年長の茅葺き職人から直に技術の伝承を受けている。ここで一人前になった茅葺き職人たちは、地元のみならず全国から要請を受けて仕事に出かけているという。

「茅は無駄が出ないサステイナブルな素材であり、茅葺き屋根の民家は夏エアコンが必要ないほど涼しく、冬は茅の厚みによる断熱効果で比較的冷えない特徴があります。また茅葺き屋根の民家が立ち並ぶ景色は、日本の原風景ではないでしょうか。茅刈りは集落の人々が力を合わせて行ってきた、晩秋の大切な仕事です。これからも我々がこの慣習を守り、文化としても次世代に引き渡せたらと願っています」と佐藤氏は語る。

 



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