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Highlighting JAPAN

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地方の魅力発信

コンパクトシティ構想による新しい成長

人口減と高齢化、そして都市の低密度化という負のスパイラルに直面した富山市が、ライトレール整備に代表されるコンパクトシティ構想でまちに活気を蘇らせた取り組みとは?(仮訳)

富山市は日本海側のほぼ中央に位置し、富山湾から北アルプス立山連峰まで、多様な地勢と雄大な自然を誇る。2005年に近隣6町村との合併を経て、人口約42万人、面積は県庁所在地では全国2番目の広さである約1242平方キロメートルとなった。

しかし他の地方都市同様、富山市もまた、人口減少と高齢化の課題を抱えていた。1999年の交通手段分担率調査では、自動車が約72%を占めており、拡散型の車社会の典型で公共交通は衰退していた。それにもかかわらず、2006年に行った調査によると、富山市民においては全体の3割、60代以上では7割が車を自由に使えない状況にあった。

また中心部から拡散発展する低密度な都市は、ゴミ収集などの割高な都市管理コスト、化石燃料使用量やCO2排出量の増大などの原因となる。富山市はこのような課題を整理し、今後20年、30年先を見据え、将来の世代に責任を持てる持続可能な都市経営が必要であると結論付け「公共交通を軸とした拠点集中型のコンパクトなまちづくりの実現」を目指す戦略を打ち出した。

まず取り組んだのは、廃線寸前だったJR富山港線を日本初のLRT(Light Rail Transit)、富山ライトレールへと蘇らせることだった。欧州の都市で広く採用される、低速で低騒音、低床バリアフリーの路面電車を整備し、運用時間や本数を見直し、利便性を向上させた。その結果、開業前と比較して、利用者は平日で約2倍、休日では約3.5倍に増加し、特にそれまで自由に外出できなかった高齢者による日中の時間帯の利用が増えた。

富山市が構想するコンパクトシティは、中心部における取り組みだけを指すのではない。中心部から伸びる鉄道・路面電車・バスなどの公共交通を活性化させながら、合併前の旧町村も含めた沿線拠点のまちづくりも総合的に行う。都心地区及び公共交通沿線居住推進地区での住宅の建設・購入への助成を通して、域内への居住を誘導し、都市の拡散を防ぐ目的だ。

「中心部に都市型のマンションが建設されるなど、高齢者が移り住む事例も見られます」と、富山市役所 都市政策課主査の若林正嗣氏は説明する。都心地区・公共交通沿線居住推進地区の居住人口は2005年に約28%であったのが2013年実績では約32%に伸び、2025年には約42%にすることを目標としている。

また、中心市街地を活性化する取り組みも進む。富山駅南部の商業施設集合地域にはヨーロッパ型の全天候型多目的広場「グランドプラザ」が建設され、路面電車の環状線化により広場前には新駅も設けられた。地元産の農林水産物を売る店やイベントなどが人を呼び、市民の賑わいの核となっている。路面電車の環状線化により「市民の外食の割合も増え、街中でお酒を楽しむ人が増加、市民のライフスタイルが変化しました」と若林氏は微笑む。さらに、2015年3月に北陸新幹線が開通したことで、県外から市内を訪れる旅行客も増加している。

中心部の賑わいによる税収確保や地価の維持など、財政面の効果も大きい。市内のたった0.4%に過ぎない中心市街地が都市計画税・固定資産税の22%を生み、それが中山間地域への行政サービスにつながるなど、効果的に還流されている。富山市全域で皆が満遍なく恩恵にあずかることができている。

富山市のコンパクトなまちづくりはOECD『コンパクトシティ政策報告書』でも取り上げられ、また、国連「万人のための持続可能なエネルギー」におけるエネルギー効率改善都市にも日本で唯一選定され、数多くの国際会議へ招聘されるなど、国際的にも高い評価を得ている。

富山市は、今後も着実にコンパクトなまちづくりを推進し、自然災害を含むあらゆる脅威に対する都市のレジリエンスを高める考えだ。市民が豊かさや幸せを実感でき、将来世代に責任が持てる持続可能な都市の実現を目指す。

 



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