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Highlighting JAPAN

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防災

Build Back Better Than Before

人と防災未来センター長

河田 惠昭氏インタビュー(仮訳)



阪神・淡路大震災から20年、その後も2004年の中越地震、2011年の東日本大震災という大規模な被災の記憶を持つ日本。阪神・淡路大震災から生まれた理念「創造的復興」(震災前の状態に戻すだけでなく、震災前より一歩進んだ未来の街を目指す復興 兵庫枠組行動)を胸にした日から、日本の防災対策や技術はどのように発展しているのか。人と防災未来センター長 河田 惠昭氏にうかがった。

日本の防災技術や対策の現状をお聞かせください。

防災とは、災害発生を予知して迅速に知らせ、対策を取ることによって災害被害をなるべく小さくして犠牲者を減らす「減災」のことを言います。日本の防災技術は日々進化し、いまや防災体制が世界一充実した国と言っていいでしょう。優れた科学者たちの努力によって、災害予知や被害予測の精度はどんどん高まり、それを社会へ配信するシステムも先端技術を駆使して、さらなる正確さ、速さを実現しています。

しかし、どんな先端技術でも、それを導入するだけで終わりになり、いざという時に減災の当事者たちが技術やシステムを使いこなせなければ、役に立ちません。人々が常に防災意識を持ち、優れたシステムが風化しない、社会の中で中長期的な関係性が構築されることが何より重要なのです。

それを私が防災の専門家として痛感したのが、阪神・淡路大震災でした。当時京都大学教授として、津波の氾らんシミュレーションやライフラインの耐震性向上などの防災技術を開発していましたが、震災の現場で自分の技術が使われず放置されていたのです。

日本は阪神・淡路大震災からの20年で、防災技術を開発するだけではなく、その技術がうまく使われるよう社会や文化に組み込む努力をしてきました。政策面でも、内閣府の中央防災会議などで、国家として防災計画を立てるプロセスをオープンにすることで防災政策立案を可視化している、唯一の国です。それが国民の防災意識を啓発し、災害の記憶を風化させないことへ繋がっています。

日本の今後の防災にはどのような指針が必要でしょうか。

環境問題が取り沙汰される途上国においても、生活レベルの向上に伴い、水や大気・土壌汚染対策から着手し、環境都市づくりを掲げるなど、環境技術への関心は高まっています。先進国は、過去の経験から高度な技術を生んでおり、中でも日本はトップレベルです。

メジャーなものとしては省エネや再生可能エネルギーの技術開発が進んでいますが、温暖化ガスの2100年ゼロ排出を目指して、排出された二酸化炭素を廃棄物として隔離し、貯留する技術も真剣に検討されています。液化二酸化炭素を、石油を掘削した井戸や地盤の安定した岩盤地層の隙間などに注入する技術です。一方で、人々の省エネ行動や環境投資を促すような社会的な仕組みを行動経済学や社会心理学、さらにはビッグデータ分析を用いて提示するというアプローチもあります。

今後日本はどのようなことに注力すべきですか。

一度災害が起こった場所に二度と被害をもたらさないという防災政策では、未だ災害が起こっていない地域での未曾有の規模の震災には対応できません。日本の高度な予測技術を用いて正確な被害想定をし、対策を敷き、災害時にも意思決定や指示が滞らないような法整備が必要です。次の災害までに間に合うよう、被害先行型の社会から、予測・予防に重点をおいた対策先行型へと迅速に移行するべきでしょう。

日本が世界に発信できる防災の知見とは何でしょうか。

日本は災害大国として技術の高さを伝えることのみにこだわるのでなく、自分たちの経験と、社会努力の経緯を伝えるべきです。社会全体で取り組む防災システムの運用について、そしてその難しさまで含めて、世界へ伝えるのです。例えば東日本大震災では、三陸海岸の津波防波堤が世界一の高さと規模であるという事実そのものに安心して、津波が起きても逃げずに亡くなった方々がいました。2014年の広島の大雨による土砂災害でも、広島全体では地質の関係で50−60年ごとに土砂災害が起きているにもかかわらず、災害の記憶が風化して被害は防げませんでした。防災に特効薬はありませんが、防災意識が社会や文化に根ざせば助かる人が増えます。最先端の防災技術を持っているはずの日本でもこれだけ苦労しているのです。葛藤する日本の姿そのものが、他の国にとってもきっと大きな知見となるでしょう。




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