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Highlighting JAPAN

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地球温暖化対策

二酸化炭素からエネルギーを作る

進化する人工光合成の技術(仮訳)



合成とは、光エネルギーを化学エネルギーへと変換する化学反応のこと。光合成を行う植物や藻類は、太陽光と水と二酸化炭素から糖(グルコース)などの有機物を作り出す。光合成の過程では水から取り出した酸素を大気中に放出する。人間にとって必要な栄養の多くや酸素は、光合成の産物だといえる。

この光合成を人工的に行う研究プロジェクトが国内外で進められている。日本国内ではNEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)による大規模プロジェクトのほか、いくつかの企業が世界に先駆けて人工光合成に成功している。しかし、太陽光から得られるエネルギーのうちで化学エネルギーに変換できた「変換効率」が1%以下と極めて低い。そんな中、東芝では人工光合成の世界記録となる1.5%という高い変換効率を実現した。

「変換効率1.5%」は、一見するととても低い数字に見えるが、バイオマスの原料として研究されているトウモロコシ(0.79%)、スイッチグラス(0.2%)などの植物よりも高い。また、植物より変換効率が高いとされる藻類のクロレラでも2%だ。

東芝の人工光合成技術では、吸収する光の波長が異なる3層を重ね、太陽光の中でも光利用効率の高い可視領域の光を吸収することのできるアモルファスシリコン系多接合半導体を電極に採用(図の左側のブロック)。まずはこの部分で吸収した太陽光で水(H2O)を分解して、酸素と水素イオンを作り出す。右側のブロックでは、二酸化炭素と水素イオンから一酸化炭素(CO)と水が作られる。ここにナノサイズの構造制御技術を適用した金ナノ触媒を使ったことで、分解しにくい二酸化炭素の反応を促進させ、エネルギー変換効率を高めることができた。

こうして作られた一酸化炭素から、ガソリンなどの燃料や樹脂や接着剤などの原料として使うことができるメタノールを製造することが可能となる。東芝では、火力発電所や工場のような二酸化炭素排出の多い設備に設置する二酸化炭素分離回収システムへの適合を目指しており、実現すれば、排出されるはずだった二酸化炭素をエネルギーとして使える。

たとえば1日の二酸化炭素排出量が30トンの施設でその総排出量の10分の1にあたる3トン/日をエネルギー変換効率10%の人工光合成で二酸化炭素をエネルギーとするには約1万平米の面積で太陽光を吸収する必要がある。これだけの人工光合成を行うには約1万平米の面積で太陽光を吸収する必要があるが、それでも杉林の140倍の効率で二酸化炭素を吸収することになる(杉林は7.8トン/年・haで計算)。こうして生成された一酸化炭素からは、1日あたり3700リットルのメタノールを変換できる計算だ。

開発を担当した東芝研究開発センターの小野昭彦さんは「人工光合成は温暖化問題とエネルギー問題を同時に解決する可能性のある技術です。そもそも化石燃料は植物の光合成により作られた物質が長年かけて地中に埋まったもの。その化石燃料を自分たちで使って二酸化炭素を排出したのですから、二酸化炭素からエネルギーを作り出すことは次世代に向けた責務だと思います」と研究の意義を語る。世界最高の変換効率を実現しているとはいえ、金ナノ触媒が高価であることなど実用化に向けた課題は多い。東芝では、2020年代の実用化を目標に、低コストでありながら高効率・高寿命な人工光合成技術の開発を目指す。

到底実現できないとされてきた人工光合成が現実となった今、二酸化炭素をエネルギー源とする「究極のエコエネルギーサイクル」の実現も夢ではない。



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