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Highlighting JAPAN

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連載 47の物語

奈良

神話の世界(仮訳)



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奈良県十津川村への道は、深い緑の大地の割れ目の中を曲がりくねるように急なカーブが続く。日本で一番大きな村、十津川村は奈良県の5分の1を超える面積を占めるが、人口はわずかに3700人ほどだ。村は割と辺ぴなところにあり、公共の交通機関はバスのみで、鉄道は走っていない。とても大きいので、村の北端から南端まで気候も大きく異なる。96%が山岳地帯のこの村では、道路は山際を沿って通り、畑は段々畑で、村人はかつて「野猿」と呼ばれる危うげな人力のロープ式のゴンドラを使って川を渡っていたという。

十津川村にある果無(はてなし)集落では、絶景とこの地の伝説がひとつのものとなっている。人口20人ほどのこの集落は山の中腹にあり、360度に広がるすばらしい眺望に恵まれている。実際、「果無」の名が示すように、視覚は山々の間にある小さな田んぼを越え、かすみの向こうに続く遥かかなたへと導かれる。この集落を曲がりながら通り抜けているのが、千年の歴史を誇る巡礼の道、世界遺産の熊野古道だ。石畳のこの道は、仏教の聖地である和歌山県の「高野山」にはじまり、十津川村を抜けてふたたび和歌山にある神道の本宮大社へと戻る全長70キロにわたる道の一部である。果無村では、旅人はしっかりした杖を持ち、1千年もの間他の巡礼者たちも愛でたであろう風景にしばし浸ることができる。

十津川村は神道の重要な拠点であると十津川村役場観光課の主事・神谷明成さんは言う。村で最も由緒ある神社を訪ねるために玉置山に向かう道すがら、野生のサルの群れが道を横切る。シカやイノシシも、住民の数をはるかに超える。ざわめく木々の間を鳥の声が突き抜ける。

玉置神社は標高1千メートルを超えるところにあり、1千年以上も昔に建立された。神社の名前、「玉置」は「宝の置かれている場所」を意味する。ここには大きく節くれ立った杉の巨木が立つ。神話の世界では樹齢3千年と言われる古木だ。この樹には、現地の村民が藁を編んで作ったしめ縄が巻かれ、神木として祀られている。

この地で修行する神道の見習である黒岩大朗さんは、何が彼をここに導いたのかを話してくれた。「いろいろな人と話をし、違った考え方に触れるのが好きです。もちろん神道に興味があったからですが、こんなすばらしい自然はどこにでもあるものではありません」。

疲れた旅人は、一日の終わりに数ある温泉の一つで疲れを癒すことができる。もっとも人気のある温泉のひとつである「滝の湯」は、温泉の横を滝が流れる露天風呂だ。ここの湯は巡回させることも、加熱されることもなく、常に自然な50℃のお湯が流れ続けている。この癒しの湯に浸かれば、身も心も元気になるというものだ。

「空気も食べ物もおいしいし、安らぎと静けさがあって、自然が本当に豊かですね」と、実は十津川村に住みたくて神奈川県から移ってきた神谷さんは話す。「ここの人たちはみな気さくで親切。十津川ではお互いに助け合い、みんな顔見知りなんです」

歴史に根ざし、人との結びつきの深い社会。十津川村では昔から変わらぬ人々の営みを見ることができる。高速な鉄道もコンビニもないが、他の大切なものがある。

 



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