Home > Highlighting JAPAN >Highlighting Japan March 2014>Creative Roots

Highlighting JAPAN

前へ 次へ

クリエイティブルーツ

日本の心を貫く木の自転車

SANO MAGIC 佐野末四郎氏(仮訳)



English



船大工の技術を活かした木造自転車の小さな工房は、東京・新木場にある。木製自転車は世界中あちこちで作られているが、「実際のロードレースに使われるものは、私が作ったものしかありません」と断言するのは職人の佐野末四郎氏。

現在、SANOMAGICを経営をする佐野氏は、江戸時代から続く船大工の家に生まれ、幼少の頃から、ものづくりに触れて育った。中学生のとき、すでに大人の職人を超える手先の器用さだった。船大工を志した彼は、父親から6年間設計と図面を学び、高校3年生にして初めて自作の船を完成させた。

しかし、日本のメディアは高校生の作った船だとは信じなかった。佐野氏が悔しさのあまりアメリカの船専門誌『Wooden Boat』に送った手紙が編集長の目に留まり、「SANOMAGIC」と賞賛された。それから世界で脚光を浴びることになり、日本での注文も入るようになった。

日本の誇るべき造船技術で船を作り続けてきたが、多くの人にとって「綺麗な船」というだけで終わってしまう。和船を作る職人の技が卓越した技術であるという事を広める方法はないのかと考えた末、ハイテク技術が駆使されているレース用自転車を作ることを決意し、2007年に造船技術を駆使した木造自転車の製作を始めた。

佐野氏は木製にすることで、よりしなやかで、しかも軽くて速い自転車を作ろうと考えた。SANOMAGICの技術を駆使した自転車は一般金属製自転車を下回る7キロ台だ。しかし、マホガニーを用いた木造自転車の強度は金属と同等程度あり、通常のレース用バイクと並ぶスピードが出せる。弦楽器のようにしなやかで洗練されたデザインのこの自転車は、彼が継承した200年の技術と経験、そして信念がこもった完璧な作品である。

「日本人はここまでやるのかという、日本人の意地みたいなもの。ヨーロッパやアメリカの人に負けない、それ以上のものを作れるということを形として証明するのが私の仕事。そう思いながらいつも作っています。」と佐野氏が語る。

海外でその美と技術が絶賛され、ドイツのバイクショーEurobikeに展示された自転車は直後に注文が殺到した。2011年にはロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館にも展示され、さらなる反響を呼んだ。

2017年まで予約はいっぱいだ。一台つくるには3ヶ月ほど要する為、一年に作ることができるのはたったの3台だ。200万円という価格だが、これだけの最高級品としてはむしろ安いのかもしれない。現在は自転車に加え、木製スピーカーも製作し、一流の音楽家たちに絶賛されているという。

佐野氏は後世のために技術と伝統だけではなく、日本のものづくりの大切さを伝えたいという。「日本の良さはまじめさと勤勉さです。日本のものづくりにとって一番大切なことは、職人が日本人としての誇りを持つことなのです」と熱く語る。



前へ 次へ