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Highlighting JAPAN

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日本の輝く技術力~中小企業の革新~

ハイテク製品をハンマーで打ち出す:

新幹線の顔を手仕事で造り出す山下工業所(仮訳)



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日本の高速列車、新幹線が日本の技術力の象徴の一つであることは広く知られている。その流線型の姿を見せるようになったのは、1964年に開催された最初の東京オリンピックを前に開業が始まってからのことである。

このハイテク列車先頭部の複雑な曲面が、単純なハンマー作業によって成形されているとは信じ難いことである。さらに驚くべきことは、多くの新幹線車両の独特の形状を造り出す技術を有しているのが、日本でたった一社、しかも従業員わずか40名の企業だということである。

山口県下松市にある山下工業所は、1963年から、空気力学に基づいて設計された新幹線先頭部をハンマーで打ち出してきた。同社の創業者、山下清登氏は地元の自動車修理工場で働いていたが、そこで板金をハンマーで成形する技術を磨き上げた。近くにあった日立製作所車両工場の社員が彼の技術に注目し、開発中の高速列車-新幹線の最初の車両である0系-の先頭部を製造するために雇い入れた。この新しい列車の評判が高まるに伴って増大する責任を果たすために山下氏は自身の会社を立ち上げ、以降日立製作所の外注業者としての役割を担っている。

新幹線の先頭部を造り上げるには職人技が必要である。厚みが1 ㎜から6 mmのアルミニウム板を、手仕事で数え切れないほどの回数打ち延ばして曲面パネルを成形し、その後それらを溶接して車両の滑らかな表面を形作る。製造物のサイズが大きいこと、列車の生産数が比較的少ないこと、さらには突然の設計変更への対応が必要なことにより、この製造工程は大量生産には向かない。むしろ細部に注意を払うことのできる手仕事のほうが優れているのだ。コンピューターが設計した優雅な形状を造り出すことだけではなく、時速320kmで走行する列車の安全を脅かす原因となる可能性のある小さな穴やひび割れを生じない高度な溶接技術も必須である。

50年が経過した現在に至るまで、山下工業所は約400両の新幹線先頭車を製造している。山下工業所は、日立製作所との提携関係により、台湾や中国向け高速列車、また日本のみならず韓国、シンガポール、ドバイ向けの特急用車両やモノレール、地下鉄車両の製造も行ってきた。同社は試験走行中の磁気浮上式列車の先頭部も製造している。

新幹線への需要は拡大しており、生産計画は2018年まで決まっていることから、生産能力の拡張と製造期間の短縮という積極戦略が必要と考える者もいるかも知れない。しかし、2007年山下清登氏引退後に同社代表となった息子の竜登氏は、同社の名声が他の追随を許さない職人技によるものであることを熟知しており、「当社は品質への責任を軽んずることはしない」と言い切る。

深夜も操業するために従業員を新たに雇うという選択はない。板金をハンマーで打ち出す技術の習得には約10年の経験が必要であり、しかもその後も終わりなき修練が続くのだ。現在も勤務している同社創業時のメンバー2名が日本政府から熟練工として表彰を受けたが、現代表の山下氏によればその一人は常に「自分の技量にまだ満足してはいない」と言っているのだそうだ。山下氏は同社が「生涯にわたって忍耐力と自己修練に対する責任感を持つ従業員を求めている」のだと的確に語っている。

そうだからと言って、同社が時代の変化に対応するための近代化をなおざりにしている訳ではない。山下氏は、「職人がより高度な仕事に集中できるように可能ならば機械を使う」方針だと言う。実際、現在では一部の切断工程にレーザー加工機が使用されているほか、板金を自動的に折り曲げる機械も使われていて、製造期間の短縮に大いに貢献している。

かつて長さが6mであった新幹線0系車両の先頭部の完成には3カ月を要した。しかし現在では、山下工業所の職人は長さが15mのはやぶさ用E5系車両先頭部をわずか2週間で完成することができる。山下氏が言うように、「最後の仕上げには人間の技とハンマーが必要不可欠」であることは間違いないのだ。



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