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複数遺伝子を簡便に検出(仮訳)

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生物学の世界ばかりでなく、臨床検査やアレルギー物質の検出、或いは犯罪捜査にいたるまで、現在、遺伝子技術はさまざまな分野で活用されている。しかしながら、遺伝子は目に見えない小さな物質だけに、その検査や分析にはこれまで特殊な装置を必要としてきた。そのようななか、簡単なキットを用いるだけで、複数の遺伝子をスピーディーに目視で確認できる画期的なシステムの実用化がスタートした。佐々木節がリポートする。

世代を越えて生物の遺伝情報を伝えていく遺伝子。その本体は一部のウイルスを除き、DNA(デオキシリボ核酸)と呼ばれる二重らせん構造をした高分子化合物でできている。二重らせんの中では、アデニン(A)、グアニン(G)、チミニン(T)、シトシン(C)という4種類の塩基が対をなし、その配列により遺伝子情報が決定する。DNAの塩基の対は、単純な微生物でさえ数千万という膨大な数に達し、塩基配列にはひとつとして同じものがない。従って、DNAを調べれば生物種や個人を間違いなく特定できるのだ。

「DNAにある4種類の塩基のうち、AとT、GとCはそれぞれ相補的な関係で、必ず対を形成する性質を持っています。われわれが開発した核酸クロマト型チップは、そのようなDNAの性質を利用したものなのです」

 こう語るのは大阪に本拠を置く大手総合化学メーカー、株式会社カネカのフロンティアバイオ・メディカル研究所の宮本重彦氏である。

 カネカが新たに開発した遺伝子検査の手順はざっと次のようになる。まず動植物の組織、菌や細胞などの検体を採取したあと、マルチプレックスPCR(Polymerase Chain Raction)という手法で、ごく微量しかないDNAを増幅する。そして、このPCR反応液を展開液と混合して検査チップに滴下・浸透させると、チップの一部がピンクの帯状に変色し、検出したいDNAの存在がすぐに判別できるのだ。

 これまで、複数の遺伝子を一度に検出するには、マルチプレックスPCRで増幅した検体を、電気泳動という電荷を利用した手法で特定のDNAを分離し、さらに染色、紫外線照射という過程をへて識別を行うため、検出までに少なくとも1時間はかかっていた。しかし、新開発の検査チップを用いれば所要時間はわずか5~10分程度。チップの設定によって、1種類だけでなく、複数の遺伝子を同時に検出することができる。電気泳動槽や紫外線照射機といった特殊な装置も不要だ。

「マルチプレックスPCRというのは、プライマーという人工的なDNA断片とポリメラーゼというDNAを複製する酵素を用いて検体の中の複数のDNAを増幅する手法で、すでに広く普及しています。ただし、われわれは、新たに開発した特殊プライマーを使用することで、そのあとの工程を格段に迅速・簡便化することに成功しました。ごく簡単に言うと、この特殊プライマーはPCR後も一本鎖の状態を維持するタグを持ち、検査チップにこれと対をなすDNAタグを埋め込んでおけば、タグ同士が結合し、それが色の変化となって現れてくるのです」と宮本氏は言う。

 カネカ新規事業開発部の実安隆興氏は、この新たな遺伝子検査システムのメリットを次のように話してくれた。

「これまで遺伝子を検査するには特殊な装置が必要なため、研究施設などに検体を持ち帰り、時間をかけて調べなければなりませんでした。ところが、この核酸クロマト型チップがあれば、極端な話ですが、病院のベッドサイドでも判定が可能なのです。食中毒や感染症の原因究明、患者の遺伝子によって効果に違いのある薬の投与判断、ガン診断や再生医療の細胞検査などもきわめてスピーディに行なえるようになるでしょう」

 複数の遺伝子を同時に検出できる核酸クロマト型チップは、食品に含まれるアレルゲン検査には非常に便利で、遺伝子組み換え作物の有無も食品工場などで簡単にチェックすることができる。このチップは、2012年11月から本格的に販売が開始されており、遺伝子検査の施設が整っていない発展途上国の医療現場をはじめ、世界のさまざまな産業分野から大きな期待が寄せられている。

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