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連載|科学・技術

熱電効果を活用したハイブリッド太陽電池(仮訳)

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熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱電素子。これを、光エネルギーを活用する太陽電池と組み合わせることで太陽光発電の効率を格段に向上させる研究が日本で進んでいる。クリーンな自然エネルギーを活用する新たな取り組みを佐々木節が紹介する。

金属や半導体の両端に温度差が生じると起電力が発生する現象“熱電効果”がエストニアの物理学者、トーマス・ゼーベックによって偶然発見されたのは、今から200年近く前の1821年のことである。ただし、そこで発生する電力はきわめて微弱なため、これまで軍事利用や宇宙開発といった特殊な用途を除けば、発電に利用されることはほとんどなかった。ところが、最近では技術革新により熱から電気への変換効率が向上し、化石燃料に頼らない新たな発電システムのひとつとして注目を集めるようになっている。

「現在、製造業の分野で排出される熱エネルギーのうち、再利用されているのは3分の1程度にすぎません。もし、こうした廃熱を使いやすい電気エネルギーに変換できるようになれば、エネルギー問題や環境問題は画期的に改善されるでしょうね」

こう語るのは名古屋大学大学院工学研究科の河本邦仁教授である。

2007年、名古屋大学と科学技術振興機構などによって開発された熱電変換材料は、廃熱発電の実用化に向けて大きな可能性を示すものだった。最大の特徴は、これまで用いていたビスマス、アンチモン、鉛といった希少で毒性の強い重金属ではなく、チタン酸ストロンチウムという、ごくありふれた酸化物を材料としていること。本来、絶縁体であるチタン酸ストロンチウムの間に特殊加工を施した0.4ナノメートルという超極薄のチタン酸ストロンチウムのシートを挟み込むことで大きな起電力を引き出すことに成功したのだ。この新しい熱電変換材料を使うと、既存の熱電素子に比べて低コストで約2倍の変換効率を達成することができる。

さらに河本教授は、中国電子科技大学との共同で、こうした熱電素子と太陽電池を組み合わせるハイブリッド発電デバイスの開発にも取り組んでいる。

「太陽電池と熱電素子を組み合わせるアイデアは以前からありましたが、どれも目立った成果は上がっていませんでした。その原因は、現在実用化されているシリコン系太陽電池パネルでは、ほとんどの光が吸収され、パネルを通リ抜けることができないこと。そんななか、われわれが着目したのは、パネルに降り注ぐ太陽光のうち、紫外線と可視光線だけを吸収して発電する色素増感太陽電池でした」

色素増感太陽電池パネルなら、赤外線がパネルを通り抜けることができるのだ。色素増感太陽電池とは、導電性ガラス、酸化物半導体、増感色素などで構成され、シリコン系太陽電池に比べると起電効率は最大12.3%とやや劣るものの、低コストで簡単に生産できるという特徴を持っている。

河本教授らが開発したハイブリッド発電デバイスは、一番上に色素増感太陽電池、その下に赤外線を吸収して発熱する複合材料を挟み、さらにその下に熱電素子を直接貼り合わせるというもので、これは世界で初めての手法である。

現時点では既存の熱電素子を使用しているため、このハイブリッド発電デバイスの起電効率は14%程度だが、チタン酸ストロンチウム製の新しい熱電素子を使った場合をシミュレートすると、一般的な太陽電池パネルの5割増し、20%以上まで起電効率を高めることが可能だという。そのうえシリコン系太陽電池とは違い、こちらは自由に成型したり、色を付けたりすることも可能。乗り物や建物など、さまざまな用途でフレキシブルに使うこともできるのだ。

「熱電素子の開発は日本が世界をリードする分野のひとつです。あまり知られてはいませんが、ゴミ焼却場で発生する熱や高温の温泉を利用してすでに実用化への取り組みも進められています。そして、今後、熱電素子を利用した発電技術が進歩していけば、ハイブリッド発電デバイスの性能はさらに高まっていくでしょう」と河本教授は言う。

無尽蔵に降りそそぐ太陽光のエネルギーを最大限に活用しようというアイデアから生まれた太陽電池と熱電素子の組合せ。このまったく新しい発電システムは、化石燃料にも、原子力にも依存しない未来の理想社会「太陽エネルギー社会」の実現に向けた大きな切り札となる可能性を秘めている。

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