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Highlighting JAPAN

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特集環境に優しい次世代交通システム

夢の輸送機に乗ろう(仮訳)

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革新的でエネルギー効率の高い様々な輸送システムの研究開発が現在日本で進められている。実用化も夢ではない、近未来の輸送システム3事例を佐々木節が紹介する。

エアロトレイン

東北大学・未来科学技術研究センターの小濱泰昭教授が研究開発を進めるエアロトレインは、航空機の技術に鉄道のスタイルを融合し、電動プロペラの推進力で、地表すれすれに浮上超高速で走る。このエアロトレインの原動力となるのは、エネルギー効率を飛躍的に向上させる「地面効果」という現象だ。航空機が地表付近を飛ぶ際、翼と地面の干渉によって翼の揚力が急増し、同時に飛行抵抗は大幅に減少する。

1980年代、旧ソ連などで、この地面効果を利用し水面を滑空する飛行艇は、盛んに開発されていた。ところが、機体が波に接触すると激しい衝撃を受け、重大事故につながってしまったことから、一般には普及しなかった。しかし、エアロトレインは左右を壁に囲まれたコンクリート製のガイドウェイを走るので、こうした危険は皆無となる。

小濱教授によれば、25年にわたる研究開発で最も苦労したのは、いかに安定した姿勢で浮上走行を持続させるかということだったという。レーシングカーなどを見てもわかるように、超高速で地上を走る乗り物は、突風などで前部が浮き上がると、そのまま舞い上がり、ひっくり返ってしまう危険性がある。無線やセンサー等、様々な試行錯誤の末に小濱教授が出会った解決策は、人間同様の動きをするロボットに組み込まれた姿勢制御プログラムだ。これを用いて、車両前後の翼を極めて緻密に動かしエアロトレインの姿勢をコントロールすることで、はじめて安定した走行が可能となった。

「約10㎝の高度を保ったまま、左右の翼がガイドウェイの壁に接触することもなく、安定して走れるようになった時は、本当に涙がこぼれるくらい嬉しかったですよ」と小濱教授は振り返る。

現在、エアロトレインは試作3号機がテストコースで実験を繰り返していて、昨年には2人乗りで時速200㎞の最高速も達成した。単位あたりのエネルギー消費は新幹線の半分以下、リニアモーターカー(磁気浮上式鉄道)の約5分の1という良好なデータも記録。実用化に際しては、ガイドウェイの上部を太陽電池パネルで覆い、特殊なパンタグラフで電源を得ることにより自然エネルギーのみでの運転もめざしている。

実用化の目標は2020年から2025年。時速500㎞で郊外の空港と都心部を結ぶシャトルタイプの鉄道などとして、世界各国でこの研究結果によるエアロトレイン導入の構想が立ち上がっている。


NYKスーパーエコシップ2030

現在、国際海運が排出するCO2の総量は年間約8.4億トンに達している。これは世界のCO2全排出量の3%弱。今後も世界の貿易量は増加が予想されているだけに、海上輸送におけるCO2排出削減はきわめて重要な課題である。

そうした状況のなか、日本郵船株式会社が次世代のコンテナ輸送船として構想したのが「スーパーエコシップ2030」である。その日本郵船が企業の長期的目標として掲げるのは、2050年までに自社の船舶から排出するCO2をゼロにすること。既存のコンテナ船に比べ、69%のCO2削減を可能にするスーパーエコシップ2030の実用化は、ゼロエミッション実現に向けた大きな通過点と言ってもいい。

「具体的に“いつ”この船が実現するのかを答えるのは難しいのです。スーパーエコシップ2030は、我々が取り組むべき省エネ技術の現時点でのロードマップとして構想しました。順に各技術の実用化を進めるため、実際に実船搭載したり、また陸上での研究を進めています。スーパーエコシップ2030が省エネに必要な技術等の問題について、より多くの人々に考えてもらう機会になればとも思っています」と日本郵船株式会社技術本部の環境グループ長、北山智雄氏は話す。

スーパーエコシップ2030の特徴は、これまでのコンテナ船の常識を打ち破る流線型の船体。これは推進に必要なエネルギーを極限まで抑えるためのものだ。動力源は燃料電池によって駆動されるモーターで、船体上面をすっぽり覆う太陽電池パネルが生みだす電力もこれをサポートをする。また、順風を受けたときは鳥の翼のような帆をあげ、風の力も無駄なく利用する。

電力で船を動かすには、今後、効率が良く、コンパクトな燃料電池の開発など、いくつかの技術的な革新も必要だろう。「われわれは燃費の改善など、目の前の課題にも積極的に取り組んでいます」と北山氏は言う。そのひとつがスーパーエコシップ2030にも装備が予定されている空気潤滑システム。船底にそって空気の泡を流すことにより、船体と海水との摩擦抵抗を大幅に低減させる仕組みだ。これを日本郵船では船体の形状が異なる複数の船に装着し、実際の航海でその効果を検証している。


エコライド

東京大学生産技術研究所と泉陽興業株式会社が共同で開発を進めるエコライドは、位置エネルギーを運動エネルギーに転換して走る省エネ型都市交通システムである。その原理は遊園地にあるジェットコースターと基本的には同じ。車体にはエンジンもモーターもなく、傾斜の付いた2本の丸いパイプの上を駆け下りていくのである。

東京大学・先進モビリティ研究センター長をつとめる須田義大教授は、エコライドの利点を次のように語る。

「エコライドの一番のメリットは極限まで車両を軽量化できることにあります。軽ければ当然、燃費が良くなるわけで、乗客1人を1㎞運ぶのに必要なエネルギーはバスの5分の1、鉄道の2分の1ほどで済みます。まさに究極の省エネ交通システムと言えるでしょう」

しかも、車体が軽ければ線路の建設費も大幅に抑えることができる。また、新しい高架の線路は道路上に敷設できるので、新たな用地確保の必要がない。この場合、建設費用は地上を走る次世代路面電車LRT(Light Rail Transit)と同程度で済むという。

須田教授らが構想する実用のエコライドは、路線長が最長で10㎞程度、定員12名の車両を2~7両連結し、平均速度20㎞/hで1時間あたり2000~2500人の乗客を運ぶというもの。駅ごとに電力を使ってワイヤロープなどで10mの高さまで車体を引っぱり上げれば、日本国内のバス停の標準的な間隔、約400mの距離を問題なく走りきることができる。

実用化への技術的な課題はほぼクリアされ、あとは公共交通機関としての安全基準を確立し、運用するのに適した場所さえ見つかれば、すぐにでも実用化が可能なレベルまで来ている。実現すれば、位置エネルギーを活用した省エネ都市交通システムの世界初の例となるだろう。

渋滞するクルマの列を見おろしながら、都会のビルの谷間をエコライドが駆け抜けてゆく……。エコで快適な都市鉄道の実現に期待したい。

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