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Highlighting JAPAN

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特集日本の食

うまみの力(仮訳)

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海外に広がる日本料理の魅力を、2010年以来、3年連続でミシュランガイド最高評価の3つ星を獲得している京都の料亭「菊乃井」(1912年創業)の三代目主人で、NPO日本料理アカデミーの理事長の村田吉弘氏に、ジャパンジャーナルの澤地治が聞いた。

──そもそも、日本料理とはどのようなものとお考えでしょうか。

村田吉弘氏:一言でいうと昆布や鰹、椎茸などから得られる「うま味」を中心に据えて作る料理です。うま味という日本語は、甘味、酸味、塩味、苦味に次ぐ、第5の味として、今や世界で通用する言葉になっています。日本料理のダシは、昆布、鰹、椎茸を水で煮ることで、それぞれのうま味物質を抽出して作ります。昆布と鰹を合わせると、昆布単独のうま味よりも8倍も強いうま味が出ますし、昆布と椎茸の組み合わせでは、16倍ものうま味が出るのです。こうしたダシで、日本料理の美味しさが、生まれているのです。

──日本料理が、世界で受け入れられる理由はなんでしょうか。

大きな理由の一つは、日本食がヘルシーだからだと思います。懐石料理の場合、一食あたりの食品数である65品目で約1000キロカロリーです。しかし、フランス料理は、25品目で2500キロカロリーに達します。日本料理では、西洋料理に多く含まれる油脂や糖分を、うま味に置き換えることで、カロリーが抑えられるだけでなく、満足感も得られるのです。

また、食材の良さも日本料理が広がった理由だと思います。私は世界各国の料理の食材を味わっていますが、魚、野菜、果物など日本の農水産物は、世界でトップクラスの味と品質と実感しています。例えば、日本のイチゴほど甘いものは外国にはありません。

そうした日本の食材の良さが最近、世界に知られるようになり、日本の食材を世界のシェフが使うようになっています。例えば、目新しいところでは、日本では古くから調味料として使われてきた柑橘類の柚子です。その独特の香りと苦みが人気の理由です。

──日本以外でも日本料理を家庭で楽しむことは出来ますか。

現地で手に入る食材で作ることができると思います。例えば、日本の代表的調味料である醤油はほとんどの国のスーパーで手に入れる事が出来ます。この醤油と砂糖を混ぜれば照り焼きソースが作れます。このソースを肉と絡めて焼けば、立派な日本食になります。たくさんの国の普段の食卓で、日本食が楽しまれるようになればいいと思います。

──村田様の海外での活動をお教え下さい。

私は、アジア、アメリカ、ヨーロッパなど世界中から招待され、日本料理を作っています。今年4月にはメトロポリタンミュージアムに招待され、100名あまりの人に日本料理を作る予定です。日本料理に対する東日本大震災の風評被害というのは、まったく感じません。今や、日本料理は世界の代表的な料理の一つとして世界中で認知されているのです。

今年6月には、私がロンドンで立ち上げた企業と、ロンドンにある投資会社が共同で、「クリサン」という名前の日本料理店をロンドンの金融街シティに開店します。ロンドンはヨーロッパの金融・経済の中心地であること、また、ロンドンオリンピックが開催される前ということもあり、開店を決めました。

まだメニューに関してはお話できませんが、料理人は菊乃井から派遣し、ロンドンの人が喜ぶ料理を作ります。食材は基本的にイギリスのものを使います。

──今後、日本料理はどのように変わっていくでしょうか。

日本料理は世界中に広がっています。そして、今後、各国の料理とフュージョンしていくでしょう。各国でその土地の食材を使った日本料理が作られていくのです。日本料理がその国の人々が喜ぶように変わっていくのは、非常に良いことなのです。実際、カルフォルニアロールやソフトシェルクラブロールは、日本以外で開発された巻き寿司ですが、それらもとてもおいしいです。

その国に合った日本料理を生み出し、成功している日本人料理人もたくさんいます。例えば、オーストラリアのシドニーの、日本料理とフランス料理のフュージョン料理で有名な「Tetsuya」のオーナーシェフの和久田哲也氏、あるいは、欧米人の口に合う寿司を生みだし、日本料理の普及に大きく貢献した、ニューヨークの日本料理店「ノブ」のオーナーシェフ松久信幸氏です。

彼らのように、日本人料理人には海外にどんどんと飛び立ってほしいです。私のロンドンの店も、次の世代の日本人料理人が世界へと進出する、先駆けとなるようにしたいです。

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