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Highlighting JAPAN

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特集震災復興

東日本大震災と日本経済の行方(仮訳)

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東日本大震災後の日本経済はどう展開するのか? その行方について小峰隆夫・法政大学大学院政策創造研究科教授が論じる。

東日本沿岸地域を襲った巨大地震と大津波は、日本経済全体に大きな影響を及ぼしつつある。この大震災の経済的影響がどのような形で起きるかについては、「ストック」と「フロー」、震災直後の「フェイズ1」の局面とやや時間が経過した後の「フェイズ2」の局面という二つの軸で整理することが出来る。

まずフェイズ1では、ストックの滅失が起きる。内閣府の推計によると、今回の震災によるストックの滅失額は16~25兆円となっている。

フローの経済活動も大きな打撃を受けつつある。第一線エコノミストの経済予測をアンケート調査している「ESPフォーキャスト調査」(2011年4月)によると、2011年1-3月期のGDP成長率(実質、前期比年率)は、マイナス1.5%、4-6月期はマイナス3.3%と予想されている。(※)

なぜこれほど大きく成長が落ち込むのか。これには、サプライ・チェーン・ネットワークが断絶したことが大きく影響している。自動車、電気製品など機械類の生産は多くの部品から成り立っている。こうした部品を調達し、生産現場間を流通させるのがサプライ・チェーン・ネットワークである。今回災害に見舞われた東北地方は、自動車、電気機械関係の部品生産の集積地であった。今回の震災によってこれらの部品供給が滞ったため、被災地以外の地域でも生産が大幅に減少したのである。

しかし、フェイズ2の局面に至ると、成長率はむしろ高くなると予想される。前述のESPフォーキャスト調査によると、7-9月期以降はプラス成長に転じ、10-12月期には実に5.0%もの高成長となると予想されている。

これ程高い成長が実現すると予想されているのには次の二つの理由がある。一つは、復興需要である。復旧作業が本格化するにつれて、滅失した住宅ストックを回復するための住宅投資、工場やオフィスビルを再建するための民間設備投資、道路、港湾、鉄道などの機能を回復するための公共投資が増えるはずだ。

もう一つは、フローの落ち込みが小さくなることである。フローについては、当初の落ち込みは次第に元に戻る。生産活動は復興してくるし、サプライ・チェーンも次第に再構築されて行くだろう。

こうしてフェイズ2においては、経済成長率は高まるものと期待されるが、経済運営はむしろ難しい問題に直面することになる。フェイズ1の緊急時には、何よりも人命救助と被災者の生活支援が求められており政策目標は明確である。他の政策目標とのトレードオフを気にする必要はない。しかし、フェイズ2では、トレードオフを踏まえて、政策目標の優先度を付ける必要があり、整合性と経済合理性を備えた政策が求められることになる。特に難しい問題としては次のようなものがある。

第1は、財源である。政府は既に約4兆円の第1次補正予算を決定したが、今後もかなりの規模の経費が必要となることが確実である。日本は既に巨額の財政赤字を抱え財政は極めて悪化した状態にあることを考えると、これ以上の国債増発を出来るだけ避けつつ、巨額の財源をどうねん出していくかが大きな課題となる。

第2は、地域の再生である。被災地の東北3県は、人口の流出が進み、高齢化率も高かった。またこれらの地域は農業、漁業に依存する度合いが強く、担い手の確保に悩んでいる地域でもあった。こうした厳しい条件下で、これら地域を再生するためには、かなり思い切った優遇措置を講じて、企業や人が外から集まるような仕組みを作っていく必要があるだろう。

第3は、エネルギー政策の再点検である。今回の震災による原子力発電所の事故により、今年の夏には後関東地域でかなりの電力不足が生じることが予想されている。また、長期的なエネルギー供給のあり方に関して、特に電力については、原子力への依存を続けるのか、風力、太陽光などの再生エネルギーをどう位置付けていくかなどの大きな課題がある。

こうしたフェイズ2における政策運営のかじ取りがこれからの日本の経済社会の方向を決めることになるだろう。


※この調査が出たあとに1-3月のGDP成長率が-3.7%であるとの発表があった

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