Home > Highlighting JAPAN > Highlighting JAPAN 2011年1月号 > 日本流おもてなし(仮訳)

Highlighting JAPAN

前へ次へ

特集日本の「おもてなし」

日本流おもてなし(仮訳)

English

石川県にある「加賀屋」は、その優れた「おもてなし」により、日本で最も有名な温泉旅館の一つだ。松井陽子が加賀屋の秘密を報告する。

石川県にある和倉温泉に、日本国内の旅行会社の投票によって選定される「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」で、1981年以来、30年連続総合1位を獲得している宿がある。1906年創業の部屋数232室の老舗大型旅館、加賀屋だ。

「ホテルではザ・リッツ・カールトンのホスピタリティが有名です。ただホテルの場合、ポーター、コンシェルジュ、ハウスキーパーなど、各従業員が専門性をもってお客様にサービスします。それに対して旅館は、お客様1組に客室係と呼ばれる女性社員が1人付き、滞在中におけるすべてのサービスを担当します。それを徹底しているのが、加賀屋なんです」と専務取締役の鳥本政雄(とりもと・まさお)氏は話す。

例えば、客室へ案内する際に客の体型から浴衣のサイズを目で見極め、それぞれにぴったりと合う浴衣を用意する。また、旬の食材や周辺の見どころなどの何気ない会話から、客の好き嫌いや明日の予定をさりげなく聞き出して便宜をはかる。結婚記念日や誕生日など何か特別なことがあれば、ささやかなプレゼントを用意し、さらに厨房に連絡して特別な一皿をオーダーすることもある。海外からの客には、料理の量を増やしたり、国の習慣に合わせて食材を変えることもある。サプライズではなく、「小さな気配り、心配り」が加賀屋の流儀だ。

「お客様に特別なサービスをするのに、上司の許可などはいりません。お客様のことを一番よく知るのは、直接コミュニケーションをとる客室係。彼女たちの判断に、すべてを任せています」

もちろん、マニュアルはある。入社して最初の1カ月は、お辞儀の角度やお茶のいれ方など、徹底的にトレーニングをする。

「でも、それが完璧にできて60点。正確性も必要ですが、大切なのは心の教育です。相手の立場になって考えることができなければ、客室係は勤まりません。心が入ってはじめて『おもてなし』となるのです。

客室係が客へのサービスに専念できるよう、加賀屋は30年ほど前から、料理自動搬送システムを導入した。日本の旅館では、レストランではなく客室で食事をし、客室係がメニューの説明、給仕、飲み物や追加料理の注文などを請け負う。そして食事が終わると、客室係が膳を片付け、布団を敷く。

「加賀屋の場合、夕食のお料理は品数の多い会席料理です。焼物や揚物などの温かいものを温かいままにお出しするために、3〜4回に分けて厨房から運ぶため、配膳の負担がとても大きかったのです。配膳・下膳の自動化で客室係の負担を減らした結果、お客様と接する時間が増え、『おもてなし』の質も上がったと思っています。

また、会計や事務処理などにも積極的にITを導入、客の目に触れない部分で効率化を図ることで、さらなるサービス向上を目指している。さらに、加賀屋では、社員が子育てをしながら安心して働けるよう、1986年に旅館企画に企業内保育園に託児所を設立している。

「客室係の勤務帯は、お客様がチェックインをする午後からチェックアウトする翌日の午前までと、子どもが家にいる時間帯と重なります。子どものことが心配では、お客様に心からの笑顔を見せることができませんから」

加賀屋の顔となる客室係を会社全体でサポートすることで、「日本一のおもてなし」を実現しているが、今後も現状のスタイルを貫くかについては検討の余地もあると鳥本専務は言う。

「日本人の生活スタイルが変わりゆく中、伝統的な旅館のもてなしが常に喜ばれるとは限りません。『おもてなし』の表現の仕方は変わっていくかもしれませんが、心のあり方は変わらないと思います」

では、加賀屋の心とは?

「旅館は『家』なんです。家を訪れてくれたお客様を、どのようにもてなしたら喜んでもらえるかを、常に考えています。会社は客室係をはじめ、全従業員が働きやすい環境をつくり、社員は常に会社をよりよくするために担当の職務を全うします。そのような社風を維持していることが、加賀屋の高い評価へとつながっているのだと思います」

客室係が日々、客とふれあう中から、新たなニーズを見出すことで、加賀屋の「おもてなし」は進化を続けている。

前へ次へ