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August 2023

日本の銭湯文化を世界に発信するジャーナリスト

  • 浴場の壁に迫力ある波と富士山の絵が描かれている、東京都・荒井湯(内部)
  • ステファニー・コロインさん
    Photo: Jordy Meow
  • 日本の銭湯の一例(外観)
  • ロッカーの代わりとして衣類を入れるカゴやうちわがある、京都府・錦湯(2022年閉店)
  • 浴場にカラフルな壁や床があり、ギャラリーのような空間が広がる、兵庫県・白浜温泉(上)、東京都・鶴の湯(下)
浴場の壁に迫力ある波と富士山の絵が描かれている、東京都・荒井湯(内部)

日本には、一定の料金をとって不特定多数の客を入浴させる「銭湯(せんとう)」と呼ばれる浴場がある。公衆浴場、風呂屋ともいう。この銭湯に魅せられたフランス出身のステファニー・コロインさん。これまでに1000軒以上の銭湯を巡り、SNSや書籍、イベントなどを通して銭湯の魅力やそれにまつわる日本文化を世界に発信している。

コロインさんが銭湯に初めて出会ったのは、交換留学生として来日していた2008年。友人に誘われて大学の近くにあった銭湯を訪れたことがきっかけだった。

ステファニー・コロインさん Photo: Jordy Meow

「フランスでは他人と同じ空間で入浴する習慣がなく、当時はまだ日本語も少ししか話せなかったので、最初は緊張しました。でも、大きなお風呂に入るとリラックスできますし、店主や常連の方が気さくに話しかけてくれて、とても居心地が良かった。温かな雰囲気とローカルなコミュニティに魅了されて、毎週通うようになりました」

2012年に仕事で再来日したコロインさん。慣れない日本での仕事が辛くなったときにふと思い出したのが、かつて通った銭湯の存在だった。「留学していたときに通っていた銭湯を再び訪ねたら店主が私のことを覚えてくれていて、自分の居場所があるような気持ちになったのです。銭湯にとても癒やされました」とコロインさん。その後、銭湯をもっと知りたいという気持ちから日本各地の銭湯を巡り、その情報をSNSで発信するようになった。会社勤めの傍ら、番台(銭湯の受付スタッフ)も6年間務めたそうだ。

日本の銭湯の一例(外観)

「銭湯は家族だけで経営しているところが多く、その土地や家族の歴史が刻まれているため、1軒1軒、佇(たたず)まいや雰囲気が異なります。訪れた人と『こんにちは』とあいさつを交わし、たわいもない会話を楽しむことができるのも魅力です。観光するだけでは分からない、その土地に暮らす人々の日常を知ることができます」

コロインさんが感じる銭湯のもう一つの魅力が、銭湯のアートとしての側面だ。建物自体が伝統的な日本建築の様式だったり、浴場の壁一面に描かれた富士山や季節の花などのペンキ画やモザイクタイル画、あるいは、のれんや桶といった小物まで、銭湯ごとに個性が際立つ。「昔ながらの銭湯はレトロで風情があり、まるでアートギャラリーのような空間が広がっています」とコロインさん。

銭湯内に昔ながらの品々やポスターなどがある、三重県・一乃湯

近年、日本では風呂は自宅で入るという習慣が定着したなどの理由により、銭湯の数が減少しているが、コロインさんの発信する情報を見て、銭湯にあまりなじみのなかった若い世代の日本人が銭湯を訪れる機会も増えている。また、海外の方からも「日本で銭湯巡りをしたい」といったコメントが寄せられることも多いという。

「『温泉』は海外でも有名ですが、『銭湯』についてはまだ知らない人も多い。『日本を訪れたら銭湯に行きたい』と多くの旅行者に思ってもらえるよう、今後も情報を発信したり、イベントを開催したりしたいです。また、いずれは日本にあるすべての銭湯を紹介したいですね」

ロッカーの代わりとして衣類を入れるカゴやうちわがある、京都府・錦湯(2022年閉店)

最近、コロインさんは銭湯ジャーナリストとしての活動のほかに、長年目標にしていたインテリアデザイナーとしての仕事も始めた。銭湯の魅力を世界に広めながら、デザイナーとして居心地のよいインテリアの家を提案したいという。二足のわらじで、彼女はこれからも大好きなものを追いかけ続けていく。

浴場にカラフルな壁や床があり、ギャラリーのような空間が広がる、兵庫県・白浜温泉(上)、東京都・鶴の湯(下)